設置趣意書:平成8年(1996年)

1.設置の趣意

コンピュータをはじめとする高度情報危機の普及に伴い、電力の経済的かつ安定な供給は電力系続にとって必須の課題となっており、この傾向は今後ますます強まるものと予想されている。

電力系統は、発電所・送電線・変電所・開閉所・負荷等のハードウェアが電気的・機械的に密接に連結した、大規模かつ複雑なシステムである。従って、電力の経済的かつ安定な供給のためには、電力系統の個々の構成要素であるハードウェアの性能・機能・効率・信頼性の向上と合わせて、システム工学的見地からのシステムの性能・機能・効率・信頼性の向上を総合的に推進すると同時に、系統に生じる様々な現象の解明をも併せて進める必要がある。

このような要求に応えるものとして、発変電・送配電工学とは別に電力系統を1つのシステムとして捉えた電力系統工学が既に成立しており、潮流解析や安定度解析を始めとする各種解析技術、制御方式のあり方、連用・計画の決定・評価手法、あるいは予測手法等々が開発され、実用に供されてきた。これらの技術は、システム概念に基づいてハードウェアとソフトウェアを総合した電力系統技術と呼ぶべきものである。

電力系統技術の一層の高度化には、既に開発されている系統技術の改善や革新を継続的に行うと同時に、長周期動揺現象や電圧不安定現象に代表される新しい系統現象の解明を推進し、さらに知識工学、ニューラルネットワーク、先端制御理論等の最新のシステム理論を適切に導入することが必要である。このことを実現するためには、これまでの電力系統技術を系統的に調査し、技術の現状や将来の課題・動向を明確にするともに、次世代を担う研究者・技術者の育成を長期的な視点に立って推進しなければならない。

このよう背景を踏まえれば、電力系統技術委員会を設置し、電力系統工学に関する系統的な調査・研究・教育活動を行い、併せてこの分野の研究者・技術者の育成と技術の進歩に寄与することは、時宜を得た重要なことと考えられる。

2.設置の目的
電気学会の電力・エネルギー部門に電力系統技術委員会を設置する目的は、以下の通りである。
(1)研究・技術交流の活性化
電力系統技術は、発変電・送配電工学、電力系統工学、高電圧工学、パワーエレクトロニクス、システム工学、制御工学、情報工学を始めとする幅広い学問分野にまたがる総合的かつ学際的技術分野の一つである。従って、さまざまな分野の専門家の知識を有機的に結びつけた研究・開発が重要となる。このような観点に基づき、本委員会は研究発表あるいは情報の収集・交換の場を提供し、研究・技術交流の活性化を促進する。
(2)技術資料の系統的収集と技術の体系化
電力系統技術は、潮流計算、安定度解析、経済負荷配分等に代表されるような既に実用に供されている技術についてもさらに新たな技術開発が必要である。また、ファジィ理論、進化論的アプローチ、先端制御理論等の最新の理論の導入も行いつつ、長周期動揺現象に代表される新しい系統現象の解明を進めて行く必要がある。そこで、国内外の最新の情報を系統的に収集し、従来の技術をも含めた現在の電力系統技術の体系化と、電力系統を構成するハードウェアについてのシステム的見地からの要求の調査などを行う。
(3)研究・開発動向の明確化
電力系統技術は、幅広い学問分野にまたがる総合的かつ学際的技術分野であり、研究・開発を効率的に実施するためには関連分野を含めた研究・開発動向を明確にすることが重要である。そこで本技術委員会では、上記の(1)および(2)の活動を通じて、国内外の当該分野の研究・開発動向の明確化を行う。 (4)関連技術教育および次世代の研究者・技術者の育成 上記(1)~(3)の活動を通じ、大学や産業界の研究者・技術者の当該分野への関心を惹起するとともに、研究・開発の現状や当該分野の意義を認識させ、研究・開発の一層の活性化を図る。さらに、大学院生や企業の若手研究者を始めとする次世代の研究者・技術者の育成を促進する。
3.設置の効果
(1)電力系統技術の育成
研究交流の活性化、内外の研究動向調査に基づく技術の体系化により、総合的かつ学際的技術としての電力系統技術の健全な発展に寄与する。
(2)研究・開発の動向および課題の明確化
電力系統技術は総合的技術である。各分野の専門家が有機的かつ組織的に交流し、共同作業を行うことにより、研究開発の動向およ課題が明確にされる。
(3)研究・開発活動の活牲化
当該分野の研究動向や研究課題を明確化することにより、大学や産業界の研究者・技術者の関心を高め、研究者・技術者の拡大を促し、研究・開発活動の活性化を促すことができる。
(4)技術の体系化と普及
これまで蓄積されてきた技術と最新の技術を系統的に調査・分類した上で、当該分野の技術を体系化する。このことにより、当該技術の普及が促進される。
(5)若手研究者・技術者の育成
大学院生や若手の研究者・技術者に、研究会・見学会・講演会等の参加機会を与え、意見交換や討論を通じて、若手研究者・技術者の育成に大きく寄与できる。
(6)国際交流の活発化
本技術委員会は、電力系統技術に関連する国際会議やシンポジウム開催において中心的役割を果たし得る。また、国際会議での発表を始めとする本技術委員会に関連するメンバの諸外国での活動を通じて、国際交流が活発化する。
4.本技術委員会の活動範囲と活動内容
本技術委員会は、電力系統技術に関連する以下の技術分野をその主な活動範囲とする。
  • 系統解析技術
  • 現象解析技術
  • シミュレーション技術
  • 系統計画技術
  • 系統運用技術
  • 系統監視技術
  • 系統制御技術
  • その他関連する技術
また、以下のような活動を行う予定である。
(1)技術委員会の開催(年4回)
(2)研究会の開催(年1回)
(3)講演会・見学会の開催
(4)調査専門委員会の運営支援
5.活動開始時期
平成8年1月~